フリーランス個人にホームページ制作を依頼するとき、発注側が本当に備えるべきは「公開後の保守が続くかどうか」です。制作そのものの品質は納品時に確認できますが、保守は公開後にしか姿を現さないためです。そして個人依頼の保守で起きる問題は、技術ではなく「人」に起因します。担当者の体調・本業の多忙・引っ越し・廃業。どれも契約書の文言では止められません。
それでも、次の3点を契約時に固定しておけば、人が変わってもサイトは継続できます。
- 名義:サーバー・ドメインなどの資産を発注側名義にする
- ソース納品:ソースコードと設定情報を発注側が保持する
- 更新体制:保守の範囲と、引継ぎ時の扱いを契約書に明記する
この記事では、保守で実際に行う作業の整理から、個人依頼特有のリスク、契約時に固定すべき対策、連絡が取れなくなったときの対処手順、そして「そもそも保守が軽いサイトの作り方」までを受注側の視点で解説します。
ホームページの保守で実際に行う作業
「保守」と一言で言っても、中身は作業単位で分かれています。費用や契約の話をする前に、まず何のことかを揃えます。
| 作業 | 内容 | 発生頻度 |
|---|---|---|
| コンテンツ更新 | 新着情報・実績・採用情報などのページ編集 | 月数回〜 |
| セキュリティ対応 | CMS(WordPress等)のアップデート・脆弱性対応 | 常時(CMS利用時) |
| バックアップ | ファイル・データベースの退避 | 月1回〜 |
| 障害対応 | 表示崩れ・リンク切れ・送信不能などの復旧 | 不定期 |
| 改修・機能追加 | 問い合わせフォームの変更、ページ追加など | 年数回〜 |
費用の目安は、制作会社への保守契約で月額1万〜5万円程度(更新作業は別途単価)、フリーランス個人への委託で月3千〜3万円程度が私の実務上のレンジです。金額そのものより、「どの作業を含むか」が契約で違うことを意識してください。月額が安くてもコンテンツ更新が範囲外だったり、逆に更新込みでもセキュリティ対応が範囲外だったりします。
なお、サイトの構成によってはこの負担そのものが大きく変わります。後述の「保守が軽くて済む作り方」の節で触れます。
個人依頼で起きやすい3つのリスク
制作会社と個人で公開後の挙動が違うのは、役割の重なり方です。制作会社では営業・ディレクター・製作者が役割を分担しますが、個人では1人が全役割です。これはコスト面の強みであると同時に、次のリスクの構造的な原因です。
リスク1:担当者と連絡が取れなくなる。 最も多いパターンです。本業の繁忙、体調、引っ越し、そして Web制作をやめてしまうこと。悪意がなくても、連絡が途絶えるだけでサイトは更新も移管もできない状態になります。法人なら「担当者が退職した」だけでは契約が消えませんが、個人事業主が廃業すると契約関係ごと消えます。
リスク2:技術が属人化する。 便利なカスタムツールや、制作者独自の構成で作られたサイトは、本人にしか触れない状態になりがちです。公開当時は問題なくても、数年後に別の業者へ引き継ぐとき、構成の把握に時間がかかります。
リスク3:契約が曖昧なまま公開に至る。 「とりあえず公開して、保守は落ち着いたら」という流れで、保守の範囲・費用・期間が未定のまま運用が始まることがあります。この状態では、更新を依頼したときの単価も、対応までの期間も制作者側の提示次第になります。
リスク1と2は、公開後に気づいてから対策するには遅いのが難点です。だからこそ次の節の「契約時に固定する対策」が意味を持ちます。
契約時に固定する5つの対策
| 対策 | 契約書に書くこと | 効果 |
|---|---|---|
| 1. 資産の名義 | サーバー・ドメインは発注側名義で契約する | 制作者と連絡が取れなくても解約・更新・移管ができる |
| 2. ソース納品 | ソースコード・DB・設定情報を発注側に納品する(随時または完了時) | 別の業者・別の担当へ引き継げる |
| 3. 管理者権限の共有 | CMSの管理者アカウント、ホスティングの管理権限を共有する | 更新作業を自社または別業者に任せられる |
| 4. 保守の範囲明記 | 含まれる作業・月額・対応目安時間を定義する | 費用と応答の期待値がずれない |
| 5. 引継ぎ条項 | 契約終了時に情報一式を引き渡す義務を明記する | 縁切りの後も引き渡しを要求できる |
このうち実務上、1と2が最重要です。1があればサイトの寿命は発注側の手にあり、2があれば次の担当が誰でも作業を続けられます。3はWordPress等のCMSを使う場合に加え、4と5は「曖昧な契約」のリスクへの直接的な対処です。
フリーランス側から見ても、これらは不当な要求ではありません。私自身は見積の時点から1・2・5を提示していますが、むしろ「体制を考えた発注者」として信頼につながります。遠慮せず契約条件として出す項目です。

サイトの資産は誰の名義か:確認一覧表
「名義」といっても対象は1つではありません。契約時に次の表で埋め合わせをします。
| 資産 | 理想の名義 | 個人名義のままのリスク |
|---|---|---|
| サーバー契約 | 発注側 | 制作者の経済事情でアカウントごと止まる |
| ドメイン | 発注側 | 移管・更新ができず、最悪の場合ドメインを失う |
| Googleアナリティクス/Search Console | 発注側 | 集計データが制作者のアカウントに蓄積する |
| CMS管理者アカウント | 発注側(共有含む) | ログインできず更新・削除ができない |
| 使用している有料サービス・素材 | 発注側(または利用明細の明示) | 継続課金の中身が見えない |
ドメインの喪失だけは復旧が困難です。ドメインはサイトの地址であり、名刺・検索・パンフレットに印刷されたURLの価値そのものです。制作費以上に重要な資産なので、ここだけは強く発注側名義を主張してください。
担当者と連絡が取れなくなったら:対処の手順
対策をしていても、現実に連絡が途絶えることはあります。そのときの手順は次のとおりです。
- 資産の確認:名義が発注側なら、サーバー・ドメインの管理画面に自分で入れます。まずここを確認する
- ソースの確認:手元にソース一式と設定情報があれば、サイト自体は継続可能。別の制作者に引き継げます
- 書面の確認:契約書・発注書に範囲・納品物が明記されていれば、催告(内容証明等)の根拠になります
- 新担当への引き継ぎ:ソースと名義が揃っていれば、引き継ぎは数日で終わります。なければ、サイトの再構築に近い作業になります
逆に言えば、1〜3が揃っていない状態は「連絡が取れなくなること自体が最大の事故」になります。契約時に5つの対策を固定しておく理由はここにあります。
保守が軽くて済む作り方:静的な構成という選択肢
ここまで「保守のリスクをどう下げるか」を書いてきましたが、発想を変えて保守の絶対量そのものを減らす方法もあります。それが、CMS(WordPress等)を導入しない静的な構成です。
保守で発生する作業を振り返ると、セキュリティ対応はCMS利用時のみ発生します。WordPressは本体とプラグインの脆弱性対応が常時必要になりますが、更新が月1回未満のコーポレートサイトであれば、CMSの利便性より運用負荷が上回ることがあります。
私自身、運営するこのサイト(groove-web.tokyo)をWordPressから静的な構成へ移行しました。移行の動機は「脆弱性対応という固定費から外れること」そのものであり、実際に移行してからはCMSアップデートという作業が消えています。具体的な手順と結果はWordPressをやめて静的サイトへ移行した全手順で公開しているので、興味があれば参照してください。
当然、取引には向き不向きがあります。頻繁に社内で更新したいサイトにはCMSが正解です。判断の目安は、依頼時の記事でも使った更新頻度です。更新が月1回未満なら、静的な構成にすることで「セキュリティ対応」という保守項目を丸ごと外せます。
よくある質問
Q. 保守契約なしで公開後に単発依頼するのはありですか?
ありですが、範囲を明確にしてください。「更新は自分で行い、障害時のみ個別見積もり」という運用は成立します。この場合も、ソース納品と名義の対策は必須です。単発依頼は関係が切れやすい分、契約書の役割が大きくなります。
Q. 保守費用の相場は月額いくらですか?
範囲次第です。セキュリティ・バックアップ等の固定作業のみなら月額3千〜3万円程度、コンテンツ更新を含むなら制作会社で月額1万〜5万円+更新単価というのが実務上のレンジです。「含まれる作業」で比較しないと、金額の比較として成立しない点に注意してください。
Q. ソースコードの納品を断られました。
著作権の帰属や契約の範囲と合わせて確認すべき論点です。安価なプランではソース非納品を条件としている制作者もおり、その場合は価格とセットの仕様です。納品を希望するなら契約書に項目を追加します。著作権まわりの確認項目は契約書で確認すべき5項目で整理しています。
Q. 静的サイトなら保守は一切不要ですか?
不要にはなりません。「コンテンツ更新・障害対応」は残りますが、「CMSのセキュリティ対応」という常時作業が消えます。更新頻度の低いサイトでは、これで保守の実務負担が大きく下がります。
Q. 発注者にも支払い面の備えは必要ですか?
あります。保守契約は継続取引なので、フリーランスへの発注時と同じく、支払期日や書面交付のルールが適用されます。支払い側の実務はフリーランスへの支払いの実務にまとめています。
まとめ:人は変わる前提で、鍵を手元に残す
- 個人依頼の保守リスクは「連絡不通・属人化・契約の曖昧さ」の3つ。いずれも公開後に対策するのは遅い
- 契約時に固定するのは名義・ソース納品・権限共有・保守範囲・引継ぎ条項の5つ
- ドメインだけは例外的に重要。サイトのURLの価値は制作費を超える
- 更新が月1回未満のサイトなら、CMSを使わない静的な構成で保守量そのものを減らせる
私自身は、依頼を受けるときにこの5つの対策を最初から提示します。発注側が「体制を気にしている」という事実自体が、後の運用を安定させるからです。遠慮する必要はまったくありません。
保守体制を含めた制作のご相談はお問い合わせフォームからどうぞ。既存サイトの引き継ぎ・移行のご相談も受け付けています。